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日常をだらだらと時々イラストもどきです。
やるならやるでいいけれど、普通にやって欲しい件について。②
勝負事に手加減は禁物。
やると決まったからには、ありとあらゆる策略を巡らせ、情報を集め、作戦を練り込んで全力で挑むべき。
まあ、そこまでは別に良い。
しかし、先手必勝。勝てば官軍。弱肉強食。力こそ正義とかになってくると「それ違う」と言わざるを得ない。
喧嘩は気合とはったりと先制のパンチとも言うけれど、暴力的なのはいかがなものか。
これは戦争じゃない。
ただの体育祭なんだから、スポーツマンシップに則って、平和的に争いたい。

※一寸余裕なくて本筋から多大に逸れました。
 準備中の閑話ということで。


まさか、本気で弁当のせいだと思ってはいないけれど、此処まで好意を持たれる要因が全く思い浮かばない。
八岐と言い、武田と言い、俺のどこが良いんだ。
絶対、何か勘違いしていると思うのだが、その詳細が分からなければ訂正しようもない。
内容に寄っては多少付き合ってやれるかも知れないが、過剰評価されても応えられない。
勝手に期待されて勝手に失望されるようなのは、俺としても不本意である。

どれだけ他人に興味がなくて、必要以上の付き合いを期待する気もなかったとしても、ある日突然手のひら返されたりしたら嫌だし、傷つく程度の人間性は残ってる。
だったら、最初から放っておいて欲しい。
そこを敢えてちょっかいかけてくるのはそっちなんだから、己の言動には責任を取ってくれるんだろうな。
この場合、何をどう取らせれば良いのか、俺もわかんないけども。

兎に角、武田は何か食わせないと見てる此方が不安になるのだ。
今日ぐらい、ちゃんと持ってきてると思いたいが、どうだろう。
念のため、多めに持ってきた弁当が不要であることを祈る。
別に一緒に食べる約束をしたわけじゃない。こんな時だから、彼奴も部活の友達と食うかもしれないしな。
いいんだ、無駄になったらなったで。八岐や羽柴、伊達も居るし、なんとかなるだろ。
最悪、一人でだって食べられなくもない。成長期を舐めるな。


なんとなく不貞腐れながら席に戻るも、伊達がぽつんと居るだけでクラスメイトの殆どが戻っていなかった。
午前の参加種目が終わったのをいいことに、それぞれが居たい場所へ行ったらしい。
同じ様に上杉がくっついて来たのはさておき、最前席の真ん中に陣取ってる伊達を見て、羽柴が顔をしかめた。

「なんだよ、お前の席は後ろだろ。
 背が高いんだから、そんなところにいられたら邪魔だって」

視界を塞がれてはかなわんと自分の席に戻らせようとするも、伊達はそっぽを向いて動こうとしない。
なんでだよと揉めるのを、後ろからの声が止めた。

「いいんだよ、伊達君はそこで」

実行委員の仕事を終え、一足遅れて帰ってきた松平が、そっちこそどいてと羽柴を横へ追いやる。
「準備はできてる?」と問いかけられた伊達が黙って頷き、ポケットから携帯を取り出した。

「じゃあ、上杉君もそこ座って。今日はよろしくね」
「ああ、此方こそ」

単に陸上部繋がりでまとまっていただけではないのか。
松平から伊達の隣に座るよう示された上杉に、武田が目をぱちくり瞬かせた。

「どしたの? 何か始めるの?」
「記録映像取るんだって。実況を頼まれてるんだよ」
「ああー 武吉っちゃん、そう言うの上手いもんね」

どうやら、委員会活動の一環らしい。
高い身長を活かして伊達がカメラマン、部活絡みで実績のある上杉が実況、ふんすと腕を組んだ松平がコメンテーターだと説明されて武田は大人しく頷き、羽柴も諦めたのか肩を落とした。
だが、しかし。


「だってよ」
「そうだとしても、端へ寄れ。
 少なくとも伊達は真ん中に座るな。邪魔だ」

どうするかと問われれば答えは決まっている。
実行委員には勿論協力するが、過剰な配慮を求めるのは違うはずだ。越権行為には従えぬ。
拒絶の意志を示せば、羽柴も納得した顔で実力行使を手伝ってくれた。
二人がかりで松平を押しやり、その他ごと動かす。

「えー 良い場所じゃないと良い映像が撮れないのにー!」
「座席3つでそんなに変わるか。無駄で意味ないだろ」
「無駄で意味ないとは、撮影場所への拘りですか。
 それとも、俺の身長ですか」
「両方だ」

なにそれ、酷い! 何が酷いだ。実行委員だからって横暴が許されると思うなよ。邪魔邪魔と纏めて右へ追いやった流れで揃って一列に並び、結果的に全員最前列を確保して、3年男子のパン食い競争を見る。

尚、昨年は借り物競争だった。
その借りてくるものに「将来のお嫁さん」が含まれており、見事告白に成功するもの、敢え無く玉砕したものと、天国と地獄がBGMだけで済まなかった為、パン食いへ変更された。
ちなみにパンは基本あんパンで、走り終わるまでに食べ切らなければいけないが、結構な確率で超激辛カレーパンが混ざっている模様だ。水を求める3年生の悲鳴がそこかしこで聞こえる。
借りにも受験生に対する仕打ちとして、いいのだろうか。来年が怖い。


あれ、企画したの誰ー? 勿論、3年の委員だけど、黒田先生が協力してるはずだよ。『思い出に残る体育祭』がキャッチコピーだって。残ればいいってもんじゃないだろ。あの悪の科学者、誰か止めろよ等と級友達が話すのを聞きながら、プログラムを再確認する。

1年合同・玉入れ
3年女子・スプーンリレー
2年男子・徒競走
1年女子・徒競走
2年合同・綱引き
3年女子・徒競走
2年男子・合同ダンス
3年男子・パン食い競争
2年女子・騎馬戦

===昼休憩===

3年男子・徒競走
1年女子・台風の目
1年男子・徒競走
応援合戦
学年総合選抜リレー
2年女子・徒競走
1年男子・組体操
3年合同・大玉ころがし
クラス対抗全員リレー

こう言っては何だが実にバランスが悪い。
2年の競技が午前に集中し過ぎている。
選抜リレーと応援合戦に出るやつもいるとはいえ、2年男子的に残っているのは全員リレーしかない。
不可思議なスケジュールに首を傾げれば、右隣で松平がポツリと呟いた。

「皆、それぞれ思惑があるから。
 3年はトリを外せない。1年生は午後に集中したがって、上手く分けられなかったんだ」

同じ学年でも意向が異なる。
出来れば、午後の2年女子徒競走は男子の時間帯と逆に持ってきたかったけれど、その他の意見に押し負けたと残念がる。

「3年がトリをやりたがるのはわかるが、1年が午後を選ぶ理由なんかあるか?」
「4組のエース潰しだね。一人、飛び抜けてるのがいるらしくて」

他学年の希望を反映した結果にしても、偏り過ぎではないか。
それでも、そうするだけの理由があるようだ。
エースは一騎当千も良いところで、普通にやっては全て持っていかれかねない。ならば競技を連続させて疲れさせ、動きを止める目論見らしい。
時間帯の固定された応援合戦と選抜リレーに選出されているのを利用し、走って応援して走って組体操の後、更に走れるならやってみろと4組を除く1年の委員全員が協力した結果だそうだ。えげつないな。


「……もしかして、織田ってやつか?」
「良く知ってるねえ!」

先に女子たちが騒いでいたのと、八岐と羽柴の話を思い出し、聞いてみれば当たりだった。
そう言うの、北条君は興味ないかと思っていたよと松平が目を丸くする。
ソースは隣だと左側を示せば、ああ、聞こえてたかと羽柴が苦笑した。

「後輩が言ってたんだわ。
 文武両道どころか何をやらせても卒なくこなし、物腰は優雅で人当たりが良く、驕らない誰にでも好かれる美形、だってよ」
「誰にでも好かれてたら、集中砲火は受けないんじゃないのかなあ?」
「……誰にでもの誰は、女子限定に違いない」
「代田ちゃんが部活で引き抜き狙ったんだけどね。綺麗に逃げられたよ」
「テニス部にいっちゃったんだよな。弟のが上手くて当人は趣味程度らしいけど。
 ……彼奴が陸上部に来てくれれば、達っちゃんの興味がそっちに行ったのに! 一体、どれだけの被害が抑えられたことか!!」
「達っちゃんって誰だ? 流れ的に代田か」

部室で聞いた話の受け売りに各自首をひねったり、予想したり、補足したりと好き勝手言い合うも、俺の感想に影響はなかった。

「何にしても、八岐ほどじゃないだろ」
「それは確かに」

彼奴以上に誰にでも好かれた、万事卒のない美形がいるなら連れてこい。
人の好みは好き好きだから万人にとまでは言わないけれど、八岐以上にバランス良く一定の評価を得ている奴を俺は知らんと述べれば、松平を始めとして全員が大きく頷いた。


「そういや、八岐は八岐でお前の方が織田より全体的にスペック上って言ってたぞ」
「馬鹿言え。
 彼奴の主観が多大に混ざりすぎて、何の参考にもならないだろ」
「それも確かに。あ、北条君が織田君に負けるって意味じゃないよ!」
「だけど、それで足かせになるのかなあ?」

話の流れで羽柴が余計な評価まで思い出したが、一欠片の客観性もない。
松平も相槌打ったのは八岐の評価に関してだけとか、気遣わなくていいから。評価対象とするのもおかしいのは分かってるから。
色々実に無意味だと切り捨てたのが、別の所に引っかかったらしく武田が首を傾げた。

「ん? 織田封じのプログラムがか? そりゃなるだろ」
「んー でも、逆にそれを望んだ人がいるから」
「おかしい。達っちゃんはおかしい。どう頑張ってもおかしい。
 あの体力と勢いはどっからくるの!!?」

移動時間や他学年の競技で多少間が空くにしても、競技続きで疲れないはずがない。
一年男子全員を巻き込んだ捨て身のスケジュールに効果がないとは考え難いが、羽柴の評価に武田は眉尻を下げ、上杉が両手で顔を覆う。
なにかに慄く陸上部二人に続いて、松平も溜息をついた。

「そうなんだよね。間に2つ競技が入るし1年の後。
 八岐さんは選抜リレーも出ないから、大丈夫だと思うけど」

女子の徒競走は午前に回したかったって、言ったじゃん。
不機嫌にムーとうなり、眉間にシワを寄せる。

「全員リレー前のウォーミング・アップに丁度いいって、午後を希望したクラスが居たんだよ」
「それが2組、か」

普段、陸上部で何が行われているのか知らないが、上杉と武田の様子から答えは出てる。
以前、訪ねてきた代田の元気すぎる言動を思い出し、陰鬱になりながら相槌を打てば、やはり否定されなかった。

「そう。言わば織田君封じと同じことを封じられる側が自ら望んだ訳さ。
 それにやれるもんならやってみろって、他のクラスが挑発に乗っちゃって」

2組の実行委員の要望が、誰の意向を受けたものかは明確。
体育会系のなかでも、代田は飛び抜けている。言い出すからにはそれなりの理由もあるだろう。
相手の土俵に乗っては勝てるものも勝てない。皆、クールさが足らないよと、松平は鼻で笑った。

「運動部所属者の数は結局、似たりよったりだからね。文系の生徒をどうするかが鍵。
 そして、うちのクラスには人並み以上に動ける八岐さんがいる。
 必然的に彼女を中心に順番を組み立てることになるんだけど、八岐さんは他の競技でも作戦の要になってもらっちゃってるからさー 
 全員リレーの前に、出来るだけ休ませたかったんだけどなー」
「そう言えば、彼奴、生物部のくせになんであんな機敏なんだ?」
「中学までは体操部だったから。昔取った杵柄って良く言ってるよ」

淡々と状況を説明しながら、松平は羽柴の疑問にも軽く答えた。
幾ら運動神経が抜群でも過去の栄光では現役に勝てず、体力的にも無理がある。切り札は本来温存すべきで、何度も切るものでもない。
引いては彼女はデコイだが、その面でも優秀なのが助かると冷徹な判断を下す姿は頼もしく、同時に薄ら寒いものを覚える。
何時もニコニコと人当たりよい笑顔にふっくらした体型で全くの無害と見せかけて、腹の中でどれだけ策略を巡らせているのだろうか。
此奴を敵に回すの嫌だな。

勝敗以外のところで不安になったのは俺だけではなく、眉尻下げた羽柴と顔を見合わせる。
そんな冷えた空気を誤魔化すように、松平が殊更笑顔を作った。

「と、言うわけで文系女子が苦しいなら、その分、ボク等文系男子が頑張らないとね!」
「済まない。俺は足の方はあんまり。力仕事だったら得意なんだけど」
「俺はこれ以上、頑張りようがない」

発破をかけられるも、ここで素直に頷けるほど自惚れてない。
身体能力的な得意分野には個人差もある。
申し訳無さそうに羽柴が首を振り、俺も既にベストは尽くしている。
突然、足が速くなるはずもなく、ない袖は振れない。
そんな弱気な俺達を責められる立場ではないのは松平もわかっているようで、静かに膨らんだ己の腹を擦り、笑顔のまま言い放った。

「と、言うわけなので、体育系男子は頑張ってね。死ぬ気で」
「……まあ、言われたことはやる」
「プレッシャーが重いです。プレッシャーで胃に穴が空きそうです。
 もし、バトン取り落としたりとかしちゃったらどうしよう」
「頑張れ、ヒデ。それを乗り越えないと大会でも、また失敗するぞ。
 それにオレも自分のことで手一杯だよ。万一、本番で転んだらどうしよう。
 また、達っちゃんのシゴキがきつくなるよ!!!」

文系が頼れないなら体育会系がやるしかない。
むしろ得意分野として、責任持って職務以上を全うしろと顔色変えずに言いつけられた面々は、またそれぞれの反応を見せた。
体育会系のくせに帰宅部の俺とそんなに変わらない発言をした伊達も伊達だが、武田と上杉は大丈夫なのか。
陸上部として、ちゃんとやれているのか。
さっきからの代田に絡んだ発言含めて、実に心配だ。
コメント
コメント
執筆、お疲れさまでした。

え、昨年の借り物競争、そんなお題が出たんですか。そりゃ、危険だなぁ。内心でどう思っているかは別にして、そんな公開告白みたいなノリじゃ、OKしたくてもできない子もいたんじゃ?
そして、今年のプログラムの順番、なんか狙いが露骨すぎますよねぇ。これ、スポーツマンシップの欠片もないような……。織田くん、やっかまれてますねぇ。それにしても、それにがっつり加担している運営、さすがに権利の濫用のそしりは免れないのでは?
八岐ちゃんも、あれこれ期待されて、たいへんそうだなぁ。彼女の武勇伝、楽しみにお待ちします。
2023/09/21(木) 23:20:52 | URL | TOM-F #V5TnqLKM [ 編集 ]
Re: TOM-F 様
今晩はー

全く酷いお題ですよね。
他にも「(公言してない)推し関連グッツ」「身内」「しまい込んで忘れた思い出」等など、持ってきたくなかったり、具体的ではなかったりと悩むあれこれが混ざっていたようです。身内って……どこまで?
正解がわからなくても競争だから急がなきゃいけない、焦りを増長するシステム。

プログラムは2年男子を除けば、午前に2回やるか、午後2回やるかの違いですね。
全学年からの選抜者がでる総合リレーは出ない子のほうが多いし、応援合戦は所詮賑やかしなので、そこまで変なスケジュールでもない、はずです。しらんけど。

なるみんは性格的にも能力値的にも正統派ではないので、メインで使うには色々中途半端なんですよね。
小技と裏技で派手にかき回して、他の子が動きやすくするのがお仕事。

騎馬戦が全く書けてないのに、お昼休みでも荒れそうな要因出てきて、どうしようかなな感じですが。
ゆるゆる勧めますので、のんびりお付き合いいただければ幸いです。
2023/09/23(土) 00:58:34 | URL | 津路 志士朗 #- [ 編集 ]
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