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日常をだらだらと時々イラストもどきです。
「女神の登場はアールグレイの香りと共に。」
以前、スーパーダーリン、略してスパダリと言うジャンルがあると聞いて、「ダーリンがいるなら、ハニーはいないのか?」との感想から。
ハードボイルドは難しい。
scriviamo! 2023参加作品です。
毎年、これで良いのだろうかとは思うのです。

「女神の登場はアールグレイの香りと共に。」

追手の網をくぐり抜けて路地裏に潜り込んだが、何時まで逃げ続けられるものか。
今度こそ、駄目かも知れないな。
過去に何度も頭をよぎった予感を振り払い、歯を食いしばって相棒の安否を確認する。

「おい、シュルト。生きてるか?」
「ああ、なんとか。」

返事はあったが柳眉を歪め、苦しげに荒い息を吐く相棒は辛そうだ。
頭脳派な彼は走ったり殴ったりと、この手の荒事が得意ではないのだ。
元々、こんな仕事をするべき立場でもないからな。
やはり何度も繰り返した感想を飲み込み、代わりに口角を上げる。
まだ余裕があるように見えればいいが。
こんな接詰まった状態だからこそ、相棒を少しでも安心させてやりたい。

「相変わらず、敵さんはあんたにご執心だな?
 よっぽど、研究の成果が魅力的だったらしい。
 流石、世界に名だたる科学者、シュルト・ユーゲンスだ。」
「よしてくれよ。そうだとしても、“元”だ。今はしがない喫茶店の店長さ。」
「それも経営は嫁に任せっきりのな。」

皮肉めいたお世辞を述べれば相棒は困ったように微笑み、表の職業を口にした。
それも店員にすら顔を忘れられかねない有様なのを揶揄って、幾ばくかの申し訳なさを感じる。
彼が表の仕事に従事出来ないのは、いや、そもそも本来の研究者として生きられないのは、俺が組織からの仕事を持ってくるからだ。
そう、いくら立派な過去を持っていても、どれだけ才能があっても、もう彼は表舞台には立てない。
うちの組織に所属した以上、仕方のないことだ。

プライマリースクールから周囲に期待され、ノーベル賞も確実と言われた神童がこんな裏組織に属し、銃弾に追われる生活にどっぷり嵌るとは誰が想像しただろう。
もったいないなと素直に思う。
彼はガキの頃から裏通りで怪しげな連中とつるんでいた俺とは違う。
学歴も才能も、ましてまともな生活まで這い上がる気力もない俺が、こんな仕事にしかありつけなかったのは自業自得だけれど、彼にはもっと輝かしい未来があったはずなのに。
だが、本来の立場とかけ離れた“今”に引きずり込んだのも、やはり彼の才能なのだ。

ある年、彼が作り出した副作用の少ない睡眠導入剤は、表社会から見れば些細な進歩であったかもしれないが、魍魎蔓延る裏社会では画期的な発明だった。
親切なスポンサーの裏の顔に気がついたのは、良かったのか悪かったのか。
別の薬品に混ぜれば、後腐れなくハイな夢を見られる新しい覚醒剤と化すことに気がついた時には、警察や政府にも手を回され、正規の方法で止めるすべは彼になかった。
そこへ目をつけたのが俺たちの組織だ。
組織のために働く代わりに研究の悪用を止めると差し伸べられた手を、彼は取るべきではなかったと俺は考えているが、その正義感からすれば他の選択肢もなかったろうとも思う。

ったく、これだから育ちの良いやつは。
自分が望んだわけでもあるまいに。
技術なんて使い方次第で悪にも救いにも変わるのだから、自身の研究結果に責任を負わねばならないなんて理想論などから目を背け、逃げてしまえばよかったのだ。
結果、行き着いた先が持ち前の頭脳と知識を生かした、産業スパイモドキだなんて笑えない。

彼に間者の才能なんてからっきしない。出来るのは、せいぜい先入先の研究を発展させることぐらいのものだ。
お陰で内部に食い込みすぎて、過剰な追跡を受ける羽目にもなる。
今回も狙った以上の成果を上げられたのはいいが、重要な社外機密を持ち出された潜入先は俺たちを捉えようと躍起になり、手段は問わないと銃器まで持ち出してきた。
捕まったら、まず命はないだろう。

「目的は果たしているから良いけれど、こんなに早く追われる事になるとは思わなかったよ。
 ああ、ジャケットがぼろぼろだ。」
「いつものパターンじゃないか。
 最後の最後であんたがうっかりドジを踏むか、余計なおせっかいをして慌てて逃げる羽目になる。
 毎回、この何方かだろ。」
「むー……悪かったよ。」

破けた上着を気にしながら眉尻を下げるのを、鼻で笑ってやる。
彼が発見するのは、研究に関わることだけでない。
業務の違法性や、データの改ざんなどなど。
見て見ぬふりすればいいものを、毎度見事に余計なことをする。
今回は被検体として、身寄りのない子供らを使おうとしているのが我慢できず、自分が逃げる前に施設から脱出させて、騒ぎを大きくしてしまった。
初めからきな臭いのが分かっていたから、倫理を問わず実験を優先するマッドな学者として乗り込んだのに、設定も何もあったもんじゃない。

暗い顔をした子供らを思い出したのだろう。
首に下げたロザリオを握りしめ、「マリア様、あの子達をお救いください。」と呟くのに、ほとほと呆れる。
まず、自分の安否を祈るのが先だろうに。
実にこの仕事に向いていないのだ、彼は。どこまでも人が良すぎる。


「また、上着を駄目にしたって、シャノンに怒られるよ。」
「……怒られるには、まず無事に帰らないとな。」

逃げ道として選んだ廃墟街の裏通りは暗くすえた匂いがして、物陰から何が出てきてもおかしくないような禍々しさを醸し出しているが、化け物より人のほうが怖い。
予め、この辺りの地理について調べておいてよかった。
ひたすら走りながら、愛妻のお説教を想像して肩を落とす相棒に心から思う。
本当に彼はこんな仕事に向いていない。組織もいい加減、手放すべきなのだ。
貸しはもう、十分利子を付けて返してもらっただろう。
この上、欲をかけば碌な結果にならないのがわからないほど、上層部も間抜けじゃないはずなのだが。

「本当にそうだ。
 ごめんよ、ジャック。毎回、巻き込んで危険な目にあわせて。
 君が助けてくれなかったら、僕は何回も死んでる。
 それなのに僕は君になにも、」
「やめろよ、気持ち悪い。俺は俺の仕事をしているだけだ。」

幾ら修羅場を切り抜けても何処か危機感のない相棒の代わりに周囲を確認し、ドブネズミのように壁の隙間を駆け抜ける。
この廃墟街はバブル時代に乱立されたビルのお陰で建物の間が非常に細く、入り組んでいる。
上手く追手を巻くことが出来るはずだ。
ただ、人の目が少ない場所へ逃げるのは、相手も手段を問わず追いかけてこれると同意語でもある。
より近くなった敵の気配に怯えながら、必死に走る。
いざとなったら、彼だけでも逃さなければ。
いや、そんなことは考えるな。今回も恐らく、いや、きっと大丈夫だ。
死神の足音が着々と近付いてくる恐怖に気が狂いそうになるのをぐっと堪え、相棒がきちんとついてこれているか確認する。

俺は楽観主義者ではない。信心深くもなければ、夢想家でもない。
だが、ずっと共にいれば、分かることがある。
俺の相棒には勝利の女神がついている。
その善良さと誠実さに惹かれた女神様が。
だから、組織の求める不慣れな仕事を繰り返し、何度ドジを踏んでも、彼は生き延びられたのだ。
きっと今回も彼女が彼を、序に俺も助けてくれる。だから、大丈夫だ。
知らぬ者が聞けば「何を馬鹿な」と笑うであろう確信に似た希望を胸に、足をもつれさせながらも懸命についてくる手を掴み、引っ張るようにして先を急ぐ。


直感としか言えない嫌な気配を感じ、背後の相棒をかばうように後ろへ飛び退ければ、パンと乾いた音がして、頬の皮が裂けた。
続いて肩、足に銃弾が食い込む衝撃を感じる。

「ジャックッ!!」
「くっそ、しくじった……」

突き飛ばされたように転んでしまった俺の傷を、半泣きで確認しようとする相棒を強引に背に隠し、打たれた方向を見やれば、複数の銃口が向けられていた。
俺たちが動かなくなったのを認め、ゆうゆうと先入先の上司が出てくる。

「随分、手間を掛けさせてくれたね。
 クーベル、いや、シュルト・ユーゲンス博士と呼ぶべきかな?
 まさか、貴方がかの有名なユーゲンスとは思いもしなかった。」
「あーあ、そこまでバレてんのか。」
「君が薄汚い組織のチンピラだっていうのもね。ジャック君。」

相手が相棒の偽の名前から本名に言い直したのに、状況の不味さを実感する。
スパイとバレたのは今更だ。
だが、相棒が有名な科学者としれたからには、単に殺される以上の展開を覚悟しなければならない。
彼の優秀さを知れば、誰だって手放したくなくなる。
まして違法な手段を用いるのに躊躇がなければなおさらだ。
ただのチンピラな俺にはなんの利用価値もないのと同じ様にわかりきった答えだ。

「博士を確保しろ。チンピラはこの場で始末すればいいだろう。」
「ジャ、ジャックに手を出したら、許さないぞ!」
「……シュルト。今どき、三文芝居でもそんな事言わねえぞ?」

当然の指示を部下に下す元上司に、震えながらも俺をかばおうと相棒は噛みつくが、紙っぺら一枚ほどの防御力もない。
彼が背中から引き剥がされ、押さえ付けられるのを、他人事のようにぼんやりと見つめる。
少々、血が流れすぎているようだ。走り続けた疲労も加わってうまく頭が回らない。

「何か、言い残すことはあるかね?」
「あー……余計な老婆心だと思うが、短い間でもシュルトを手荒く扱わない方がいい。
 女神の逆鱗に触れる。」
「女神?」

銃口を突きつけ、勝ち誇った笑みを浮かべる元上司に無駄と知りつつ助言すれば、案の定、鼻で笑い飛ばされた。

「それが遺言か? 随分、変わっているな。」
「いや、いるんだ。勝利の女神が。彼女は必ずシュルトを守る。
 今回はちょっと遅いけど。」
「はっ、恐怖で頭でもおかしくなったか。」

繰り返しても、相変わらず元上司と意思の疎通は出来なかった。
そりゃまあ、そうだろう。だが、女神は実在する。
彼の頭脳と人柄に惚れ込んだ麗しき女神は、奇跡としか言えない御業を持って彼を守護し、必ず生還させる。
信仰心など持ち合わせない俺が唯一信じるそれは揺るぎない事実で、きっと変わらない未来だ。
ジャック、ジャックと泣き叫ぶ相棒の声を虚ろに聞きながら口角を上げて見せれば、侮蔑に顔を歪ませ、上司は撃鉄を起こした。
あーあ、シュルトをあんなに泣かせて。
ろくな結果にならないぞと溜息を付き目を閉じる。
僅かな間を置いて絹を裂くような相棒の悲鳴と銃声が耳をついた。


ダンと一発。
続けて、ダダダと複数回。

「何者だ?!」
「女!?」
「あなたー? ついでにジャックさん、大丈夫?」

混乱と悲鳴。
ハンドガンでは出せない重音と場違いな柔らかい声。
心をざらつかせる硝煙の匂いをそっと押しのけ、ほんのりとベルガモットとミルクの混ざった甘く柔らかな香りが漂ってくる。
複数上がった困惑の声がドカドカと言う打撃音と共に消え、代わりに「ワンワン!」と嬉しそうに犬が吠えるのが聞こえる。
ああ、女神が来た。

「シャノン!? どうして此処に!?」
「どうしても、こうしてもないわ。旦那様が困っているのに、助けない妻がいるものですか。
 さ、残りの追手が来る前に逃げるわよ。」
「で、でも、ジャックが……! ──残りの? 此奴らの他に、まだいるのか?」
「いるわよ。こんな入り組んだ路地に逃げたんだもの。手分けして探すに決まってるでしょ。
 幾手にか別れた他の連中が間もなく……ああ、ほら、来ちゃったじゃない!」

相棒と女の話し声が止まり、どーんと大砲が発射された音が聞こえた。
ガチャガチャと砲弾を込め直す気配に硬くまぶたを閉じる。
ああ、開けたくない。このまま、目を開けたくない。
なんで淑女の細腕で、バズーカー砲の衝撃に耐えられるのか。
されど現実逃避は許されず、ビーグル犬が飛びついてきて頬をペロペロ舐め回す。
たまらず顔を上げれば、遊んでいる感覚なのか「大丈夫かい?」とまん丸の目をくりくり動かし、しっぽを振る。
なんの含みもない動物の無邪気さが今は憎らしい。
やんちゃなビーグルはすぐにご主人様に押しのけられ、代わりに手荒く傷口を確認される。

「ジャックさんも何時まで呆けてるの! その程度で音を上げるほど、やわじゃないでしょ!」
「はい、すみません。」
「貴方には、主人がとってもお世話になっているし、いつも守っていただいているのには幾らお礼を言っても足らないけれど、だからってそれとこれとは別です。
 貴方もこの業界長いんだから、一分一秒を争う事態だって分かってるでしょ。さ、立って!」
「はい、すみません。本当にすみません。」

歴戦の傭兵のように素早く止血を終えて、俺の前で怒ってみせるのすら愛らしい。
赤みがかった艷やかな金髪に緑の大きな瞳、雪のように白い肌。
上品で暖かそうなチョコレート色のコートにトレードマークのハンチング帽。
丈夫そうながら女らしさも備えた皮のブーツからは、黒いストッキングに包まれた形の良い足が生えている。
腰に手を当て、プンプンとお説教を口にする姿は何処からどう見ても、良いところのお嬢様でしかないが、武装集団をぶちのめし、俺たちを救出したのは他でもない彼女。
相棒の愛妻、シャノン・ユーゲンスその人である。
追手に向かってバズーカ砲打ち込んでたけど、今日なんて全然おとなしい方だ。
この間は薬に飲まれて集団暴徒化した学生を纏めて無力化させた。
その前は、一軍隊と戦って当然のように殲滅した。
虫も殺せなさそうな顔をしてとんでもない戦闘能力、いや、もう彼女のそれは人間のものではない。
神業。正に神の御業。

仕事のことは何も伝えてないはずなのに、毎回潜入先突き止めて、ピンチに必ず助けに来てくれるんだよー
一度、GPSでも付いてるんじゃないかって確認したけど、そう言うわけでもなかったよー
なんなの? どうやって調べてるの? 
転生者でチート能力でも付加されてるの? 異世界から来た主人公なの? うわあ、納得ー

「全くもう! お仕事だから仕方ないと言っても、こんな毎回危ないことに巻き込まれるなんて!」
「ううう……ごめんよ、シャノン……」
「良いのよ、貴方。怒ってるんじゃないの。
 でも、優しい貴方に似合う、もっといい仕事があるんじゃないかって、私思うの。
 ジャックさんからも、もう少し仕事を選んでもらえないか上の方に頼んでいただける?」
「はい、すみません。伝えさせていただきます。」

立場を考えれば所詮、モブにしか過ぎない俺に主人公へ抵抗するすべなどない。
その怒りが此方に向かぬよう、ひたすらに従うのみである。
しかし、彼女が言う通り、組織は何故、何時までも相棒に産業スパイやらせてるんだろ。
毎回揉め事起こすし、向かないってわかりきってるのに。
近いうちに彼女がブチ切れ、旦那を危険な目に合わせる存在として矛先がこっちにも向きかねないって目に見えてるのに。
やだよ、俺。組織の尖兵として最初に粛清されるとか。
無理だよ。彼女には誰も勝てないよ。今、一瞬向けられた怒気だけで、十分死にそうよ。

全くそうは見えないパワーガールに引き連れられ、一息つく間もなく組織への報告を済ませ、病院へ直行する。
組織の手が回ったやぶ医者によれば幸い傷は深くなく、しばらく安静にしていれば良くなるそうだ。
治療費に上手く上乗せしておくから二、三日入院しろと勧められ、甘えることにする。

仕事が終わったのだから、さっさと帰れば良いのに、相棒は縫合の間もずっと待っていてくれて、入院が決まると明日にでも見舞いに来ると力強く宣言した。
帰り際、何度も不安げに此方を振り返るのに軽く手を振り返し、良いやつだなと素直に思う。
うん、彼奴は良いやつなんだ。嫁さんにも、いつも助けられてるんだ。それは事実なんだ。


退院が決まると快気祝いにと飲みに誘われた。
改めて組織にも潜入結果諸々を報告し直し、相棒との待ち合わせ場所へ向かう。
取り敢えずとエールを一杯やってから、彼は困ったように微笑んだ。

「改めてジャック、退院おめでとう。
 それで、次は何処へ行けばいいんだい?」
「……何故、分かった?」
「分かるよ。君の顔を見れば。
 今日、早速にも次の指令が出たんだろう?」
「──ったく、俺は退院したばっかりだって言うのにな。」
「本当だ。無理はしないでくれよ。」

うちの相棒は、変なところで勘がいい。
バレてしまった以上、嫌なことはさっさと済ますに限り、新しい仕事の概要を伝える。
また数週間ほど家を空けさせねばならず、彼の愛妻になんと言われるかと思えば、自然とため息が出た。
だが、避けては通れぬ道だ。

「それで、奥さんには俺から、」
「大丈夫。シャノンには昔お世話になった大学の教授に呼ばれたとでもごまかすよ。」

仕事については彼女も知るところなのだから、あらぬ誤解を得ぬよう責任持って説明をと言えば、相棒は首を横に振った。

「……俺が言うのも何だが、ちゃんと説明したほうが良いんじゃないのか。」
「いや、彼女には仕事のことで心配掛けさせたくないんだ。」
「……わかったよ。」

きっぱりと言い切るのに肩をすくめて返す。
俺の相棒は頑固だ。こうなったら、梃子でも動かない。
その必要性があるかは別として。
少々お転婆だが自分にとっては可愛い妻で、夫として出来るだけ危険から遠ざけたいのだとはにかむのに、惚気は聞き飽きたと笑ってやる。
他所様の家庭に余計な口を挟む権利もなく、無駄な議論を費やす代わりに仕事の資料を渡せば、真面目な相棒は熱心に読み始めた。

「……今度の潜入先も、随分あくどいことをしてるんだね。」
「ああ、危険度も高い。正直、仕事の分野的にもお前に向かないと思うんだが、」
「大丈夫。これくらいなら何とかしてみせるよ。」

今度の潜入先は軍事技術で名を馳せる企業の一つ。
断れば、その分、被害を受ける人たちが増える。
多少の不足は努力で補うと力強い回答に、相変わらずの生真面目さを感じる。

「ジャック、僕らは最高のコンビだ。
 今度も上手くやろう。」
「ああ、そうだな。」

真っ直ぐに向けられた視線から伝わってくる深い信頼に、ただ頷き返す。
同じ理系でも物理は専門外だろうに、問題ないと言ってしまえる天才的頭脳に今更驚きはない。
此奴がなんとかすると言うからには、大丈夫なのだろう。
また、あの女神がいる限り、どんな修羅場も乗り越えられるのだろうが。
彼女から頼まれた「もっと安全な仕事を」との要望を思い出して、相方に向き直る。
俺からの上申は無視されてしまったが、此奴がもう嫌だと自ら動けば、組織も考え直すかもしれない。

「だけど、シュルト。お前、何時までこんな仕事を続けるつもりだ?
 完全に足抜けは出来なくても、もっと違う仕事を回してくれるよう上に掛け合ったって、」
「どうしたんだい、ジャック?
 やけに弱気じゃないか。怖気づいたのかい?」
「俺はただ、」
「わかってるよ。僕を心配してくれているんだろう?」

配置換えを打診するよう提案したら、軽く笑われてしまった。
僕は君のようにタフじゃないからねと自嘲して、相棒はゆっくりと頷いて見せる。

「でも、大丈夫。僕は君と一緒なら、どれだけ危険な仕事でも平気だよ。」
「……そうか。」

なんの迷いもない、澄んだ瞳に伝えられるはずもないが。
お前は平気かもしれんけど、もう俺が転職したいなー
ジョッキに残ったエールを飲み干して、俺は静かに天を仰いだ。
コメント
コメント
やーん、面白い〜。
無敵なのにお嬢様風におっとりとしたシャノンも素敵ですが、シュルトが意外に仕事にノリノリなのもいいですねぇ。
ジャックは結局この夫婦に巻き込まれているだけかも。まあ、シュルトといれば少なくとも助けは必ず来てくれるからいいのかな……。

っていうか、喫茶店はもしかしてジャックがバイトして、シュルトとシャノンのコンビで潜入した方が話が早いとか? なんて身も蓋もないことを考えてしまうスーパー夫婦、楽しませていただきました。

って、これ、お返しどうしよう……。少々お待ちくださいませ。
2023/02/20(月) 04:44:45 | URL | 八少女 夕 #9yMhI49k [ 編集 ]
こんばんは。
確かに素敵なメンバーです。特にシャノン?とってもキュートな外観からは全く想像できないその能力?サキのとっても好きな部類のキャラクターです。
お人好しで無駄に正義感たっぷりのシュルト?彼も素敵ですし、結局その彼に振り回されているジャックもいいキャラですよ。このチーム最強ですね。アールグレイの香りと共にシリーズ化してもいけそうです。
そして、これだけの能力を持っているのにシュルトの次の行動を阻止しようとしないシャノン。正義感に突き動かされて新しい任務を嬉々として受けるシュルト。そして結局二人に流されるジャック、こりゃぁ。どうしようもないですね。結局、また新たな悪の組織に鉄槌を加えることになるんでしょう?
ハードボイルドは難しい・・・なんておっしゃってますが、ちゃんと固ゆでになってますよ。
さて、夕さんはどんなお返しを考えられるんだろう?けっこうハードボイルドも書かれるんで楽しみです。
2023/02/20(月) 22:13:03 | URL | 山西 サキ #0t8Ai07g [ 編集 ]
Re: 八少女様
今晩は。
たまにこの手の力技系で王道っぽいのが読みたくなります。
確かにシャノンが参加すれば速いでしょうね。悪の研究どころか物理的に全てを破壊して帰ってくるので。
だが、そうじゃないみたいな。

多分、超人的な能力がないだけで、ジャックが一番「仕事が出来る」のだと思います。
研究しか出来ない相棒と火力全振りな嫁の代わりに潜入先でのカモフラージュや下調べ、帳尻合わせなど、細かい調整を彼がしているから多少強引でも上手く回る。
だけど、けして高い評価は受けない一番損な役割。可哀想。
バイトに回ったら、留守がちで気の利かない店長の代わりに職場をホワイト化してくれそうです。
後、犬の散歩もしてそう。

バタバタでずいぶん遅くなりましたが、間に合ってよかったです。
早速のコメントをありがとうございました。
2023/02/20(月) 22:48:40 | URL | 津路 志士朗 #- [ 編集 ]
Re: 山西 サキ様
今晩は。
一人、逃げ出したがっていますが、バランスは良さそうですね。
ただシリーズ化……は、どうでしょう。今のところ、ちょっと思いつかないのですが機会があれば。

シャノンは基本、夫の仕事は応援したいと思っているので止めませんね。
ただ、怪我をしたり、危険なのは困るのでそこだけ手を出す内助の功?
シュルトは素直で、自分が助けてもらったから次は他の人をと考えていますし、何より成果を上げればジャックも喜ぶと信じているので頑張ります。いや、相棒、裏で泣いてますけど。
そしてジャックは現実派の常識人なので、どうせ助けてもらえると楽観的にはなりきれないし、普通に危険な仕事は怖いし、序に相棒の嫁も怖いし、結局なんとかなってるので仕事は続くしで、胃に穴が空きそう。
確かにこれはどうしようもない。

気に入っていただけたのなら嬉しいです。
後半はコメディですが、前半はちゃんと固茹でになってるみたいで良かった。
コメントをありがとうございました。
2023/02/20(月) 23:09:20 | URL | 津路 志士朗 #- [ 編集 ]
執筆、お疲れさまでした。

ニヒルを気取ったジャックの言動など、前半はしっかりハードボイルドですね。
才能の無駄遣いと暴走しているシュルトをカバーしながら、「組織」からの仕事をこなし、逃亡まできっちりやってきたジャック、なかなかに有能ですよね。
追手に追いつめられ、強がりめいたことを言い続けるあたりまでは、ハラハラしましたが……。
ベルガモットの香りとともにシャノンが参戦してからは、もはやギャグのレベルで彼女の無双っぷりを楽しませてもらいました。ジャック、完全に主役の座を取られて、モブ化してるし。
このコンビ、新しい任務でも同じように暴れまわっているんだろうなぁ、軍事企業が本社ビルごとシャノンに瓦礫にされないといいけど。
イベント用らしい、愉快なお話でした。
2023/02/22(水) 12:09:07 | URL | TOM-F #V5TnqLKM [ 編集 ]
Re: TOM-F様
こんにちは。

笑いの基本は緩急で上げないと落とせないので、なんちゃってながら前半はちょっと頑張ってみました。
が、名前考えるのがとか、どうすれば自然な設定になるのかなど、ぶつくさ言い腐っていたのはここだけの話です。
「同じ理系だからって、生物系が物理系もいけるとかおかしいだろ」などと言ってはいけません。
天才って便利な言葉ですね。

相棒は専門以外は無能…ゲフンゲフン、もとい天然なので、潜入中はジャックが頑張らないと非常に危険なんでしょうね。
自分のためにも何とかしないとヤバい。
ただ、安心しきれないまでも、最終的には嫁さんがなんとかしちゃうんだろうなと達観しつつあるので、頑張る意義を見失いかけてもいそうです。
彼のニヒルが二人のチートに囲まれた厭世観から来てないことを祈るばかり。
実際、相棒と嫁以外からの評価、自他ともに低そう……ちゃんと仕事してるし、いないと困るけど、どうしても周囲は天才の偉業だけを取り上げますから。
そう考えると、彼らがゴールデンコンビとして認められるより、嫁さんが瓦礫の山を作成する未来のが近そうですね。標的に限らず。

コメントをありがとうございました。
2023/02/24(金) 12:35:17 | URL | 津路 志士朗 #- [ 編集 ]
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